宇多田ヒカル

ゲンドウではなくユイの歌。宇多田ヒカル『Beautiful World』歌詞分析

宇多田ヒカルが好き、エヴァが好きな私、当然Beautiful Worldは宇多田ソングBest3に入るほどお気に入りである。

瑞々しく、軽やか。水の中で絵の具が織りなす、美しい流し模様のような、ふわっと頬を撫でたり髪を浮かせる優しい風のような、そんなイメージ。とにかくメロディ・歌詞・アレンジのすべてが好みドンピシャなのだ。

エヴァのテーマ曲としても文句なし。いや、もはや完璧だ。宇多田ヒカルとエヴァのシンクロ率がヤバイのは有名だが、特にBeautiful Worldとエヴァの世界のシンクロ率は桁違いである。

今回の記事では宇多田ヒカルの過去のインタビューを引用しながら、Beautiful Worldの歌詞の意味を考察してみようと思う。

Beautiful World 歌詞の意味を考察

君のそばで眠らせて=隣の墓で永眠させて

It’s only love

もしも願い一つだけ叶うなら
君の側で眠らせて どんな場所でもいいよ

まず、It’s only love♪。

宇多田は下記のインタビューで「結局は言い方は難しいこと言ってても誰かに愛されたいとか、 誰かを愛してるとかそういうことだから、簡単に言っちゃうと」と言っています。

なので「It’s only love=ただ愛してるだけ」ということかな?と推測。

次に「もしも願い1つだけ叶うなら、君のそばで眠らせて」だが宇多田はこれがBeautiful worldという曲のメインであると言っている。

下記のインタビューによると、「君のそばで眠らせて」は突き詰めると「死んだ後にお墓の隣に入りたい」という意味なのだそう。

歌詞はやっぱり、人間関係のテーマとか親のこととか信頼関係とか、人と人の間にある壁とか、そういう人間関係のテーマとか、やりとりみたいなものに触れてる歌詞にはしたかったんだけど、そんなあからさまに「人と人のこと」みたいなのもヤダし、結局は言い方は難しいこと言ってても誰かに愛されたいとか、 誰かを愛してるとかそういうことだから、簡単に言っちゃうと。だから、結局そういう、誰かを強く想ってるっていうのが歌詞のストーリーになるんだろうなぁと思ってて。

もしも願いひとつだけ叶うなら君のそばで眠らせて どんな場所でもいいよ♪がメインみたいなもん。

子供のころに母親と一緒に寝てて、なんかこう……もう一度母親の隣で寝たいとか、恋人の隣で寝たいとか、あと……ホントの中心部分で言うと死んだ後にお墓の隣に入りたいとか、死んだ後でもいいから近くにいたいいとか、そういうことなんだけど。ホント、私だけの歌で「エヴァ」とか関係なかったら、もっとわかりやすい歌詞にしてるんだけど。

宇多田ヒカル 「点」P199より

もしエヴァ関係なく宇多田ヒカルがこの歌を仕上げていたら、サビは「もしも願い1つだけ叶うなら、君の隣で永眠させて、どんな墓でも結構♪」と、もっと耽美な歌になっていたかもしれない。

宇多田ヒカルの凄いところは、宇多田ヒカル×タイアップの両立、哲学×ポップさを最大限に両立させるところである。

Beautiful Boyを見守る歌

Beautiful world
迷わず君だけを見つめている
Beautiful boy
自分の美しさ まだ知らないの

宇多田ヒカルはこの歌を「登場人物の誰目線であっても当てはまるような歌にした」と何かのインタビューで答えていた。しかし「Beautiful Boy 自分の美しさ、まだ知らないの♪」では、わざわざBoy(=男の子)に限定している

執筆者:山猫

単純にBoyという音がよかっただけかもしれないけど、Beautiful Heartとか、2番ではBeautiful girlにするとかもあったと思うのよね

わざわざBoyにしたのは、少年を見守る女性の視点※を強く出したかった・出てしまったからなのだと思う。

(※宇多田ヒカル本人が、「母親の視点から歌っている感覚がある」と言っている。後述の引用を参照願います)

だからかBeautiful Worldは、曲中の一人称はすべて「僕」だが、曲全体を通して、その「僕」を優しく見守る女性の存在を感じる。

この歌は、自分を知らない・好きではないシンジ(=少年性)と、そんな少年性を理解・受容して見守る周囲の人(=母性)の歌なのだ。

少年の心の声

寝ても覚めても少年マンガ
夢見てばっか 自分が好きじゃないの

何が欲しいか分からなくて
ただ欲しがって ぬるい涙が頬を伝う

このAメロは少年の描写である。自分が好きじゃないから「寝ても覚めても少年マンガ 夢見てばっか♪」になるのは少年あるあるだ。

「ぬるい涙」だが、「ぬるい」という言葉には中途半端に暖かいという意味もあるが、”厳しさがない”という意味もある。厳しさがない=甘い。

つまり、ぬるい涙=甘ったれた涙、という風にも解釈できる。まぁ何が欲しいか分からなくて、ただ欲しがって泣くんだから甘ったれてると言えるだろう。

言いたいことなんか無い
ただもう一度会いたい 

言いたいこと言えない
相性無しかもしれない
それでいいけど

シンジが、お母さんの何か、魂に一瞬だけ会うシーンがあるのね、エヴァンゲリオンの長いストーリーの中で。その時に、「あ、何だ、ただもう1度会いたかっただけだったんだ」って彼は言うの。彼自身そんな願いがあったなんてわかってなかったんだけど、結局そういうことを思ってたんだってその時に気づく。だから「そうそう。そんなもんだよね」みたいなね。

願うことが生きること…だから。願いたくないのに願っちゃうし。ここだけはもうどうしようもなく、生き物の本質だと思うから。

EVANGELION.CO.JP

上記のインタビューで宇多田はストーリー中でシンジが言った「ただもう一度会いたかっただけなんだ」というセリフを取り上げている。

また、「言いたいこといえない 根性なしかもしれない♪」もモロ、シンジである。アスカに「根性ナシッ」って罵倒されてるし。「それでいいけど♪」って開き直ってるところもシンジっぽい。

Bメロも完全にシンジである。

2番A~Bメロは母の目線?

どんなことでもやってみて
損をしたって 少し経験値上がる

この「なんでもやってみな、損してもいいの、全部経験よ!」というのはどう見てもシンジの(=少年)の言葉と思えない。

母(=大人)の言葉である。1番のAメロは少年の心だが、2番のA~Bメロは母の心を表している。

新聞なんかいらない
肝心なことが載ってない
最近調子どうだい?
元気にしてるなら
別にいいけど

新聞に載ってない肝心なこと=「元気にしてる?」

「最近どう?元気にしてる?」と聞くなんて母じゃん!そして「元気にしてるなら別にいい」と答える……

……母じゃん!

「別にいいけど」と言われると「え、そんなに興味ないのかよ!」と思いそうだが違う。近況を聞いてきた人は「元気でいてさえくれればいい」と思っているのだ。

……やっぱ母じゃん!

僕の世界が消える=死ぬ?

僕の世界消えるまで会えぬなら
君の側で眠らせて どんな場所でも結構
Beautiful world
儚く過ぎて行く日々の中で
Beautiful boy
気分のムラは仕方ないね

もしも願い一つだけ叶うなら
君の側で眠らせて

「僕の世界消えるまで」=死ぬまで、という意味かなと推測。先にも書いたようにこの歌は「死んだら隣の墓に……」という気持ちが込められているので、

この部分の歌詞は「死ぬまで会えないなら、死んだ後に隣の墓で眠らせて」という意味かと踏んでいる。

執筆者:山猫

儚く過ぎて行く日々の中で
Beautiful boy
気分のムラは仕方ないね♪

個人的に一番好きな歌詞。人の心は移ろいゆくもの、という諦観が心地よくて好きです。

「Beautiful World」とはなにか?

さてここまで飛ばしてきたが、この曲のタイトルBeautiful Worldとはどういう意味が込められているのか?

その答えは下記のインタビューにある。

どんな場所でも、ただあなたがこの世界に存在してるとか、誰か深く思える人がいるとか、存在してるとか、そういうことだけで、そこが耐えられる場所になるんでしょって思って。

なんか……生きる……、「生」ってホントに耐えがたいものじゃない?それに耐えうる拠り所っていうか、なんか「これがあるからここにいられる」とか、そういうものがあるから「Beautiful World」って言える。逆にそれがなかったら「なんだ、このクソ世界!」ってところに行っちゃうんだけど。願いに何も価値はないと思うんだけど、願わずにはいられないからもう認めるしかないじゃない?みんな願うってことを。

宇多田ヒカル「点」 P199~200

宇多田ヒカルはこの歌のテーマは「願い」と言ったそうだが、この願いとは何なのか?と掘り下げると、それはきっと”安らぎ”である。シンジ・宇多田ヒカルが最も求めるもの、人が原始的に求めるもの。

クソみたいな世界だけど、あなたがいるから美しい。美しいから耐えられる。あなたの隣で安らぎたい。

世界を美しいと言えるのはあなたがいるから。Beautiful Worldとは遠回しなI love youなのだろう。

「月が綺麗ですね」ってやつだ。

Beautiful Worldはゲンドウではなくユイの歌

自然と母親的な視点が強く出た

One Last Kiss然り、Beautiful Worldもゲンドウの歌だ!と言われているが、Beautiful Worldに関して言えば宇多田ヒカルは下記のように述べている。

愛する人のそばで寝ていて、その人が私がそばにいるって気づかなくてもいいから、なんか寝顔を見てるとか、なんとなく寝息を聞くとか、それだけでもすごく安らいだりするじゃない?

私が母親なんかになって、子供の隣で寝てたりしたら、今のこの気持ちの何百倍もの安らぎとか愛情とか、そういう不思議な感覚に陥るんだろうなって少し想像しただけで「凄そう!」って思うの。

で、そういう想像をしたうえでBeautiful Worldをとらえてみると、ちょっと母親の視点から歌っているような感覚があるんだよね。

別に誰かの気持ちって特定しないで書いていたのに自然と綾波レイとか碇ユイみたいな気持ちの、母親的な視点、母性みたいなみものが強く出てきていたのは、今のこの時期(=24歳)だったからかもしれないなって。17歳ぐらいのときにこれを書けって言われてたら、もっとこう別の視点で書いていただろうし、それもおもしろいなと思ったり。

宇多田ヒカル 「点」 P202~203 

上記のインタビューの大部分※は↓に載っています。

宇多田ヒカルの楽曲をより深堀りたい人は必須。過去のインタビュー内容がほぼ載ってるし、宇多田ヒカル本人が監修しているので信頼性も抜群です。

Beautiful World Da Capo ver. 正直な感想

ううううーーーん……映画の終わりに使うなら、オリジナルver.でもよかったのでは??

これが正直な感想。

One Last Kissで爽やかに終わった後にコレが来るのか……と思うと、うーーーん……渋いというか癖が強いというか、後味さっぱり感が欲しいというか。

感覚的には、One Last Kissというハーブティーを飲んだ後に、スパイスきつめのチャイとか、飲みやすい漢方薬を飲むような気分というか……。なんか妙にエスニックなのよ。曲の後半(およそ3分以降)は軽やかさが復活するし、これはこれで「ついに普通の世界が訪れた!さようなら青春」みたいなラスト感はあるんだけど……。

Beautiful Worldのオリジナルver.という水・炭酸水でええやん、と私は思ってしまう。あれ以上のエヴァ歌はないのに。まぁ冬っぽくはないけど……アレは夏っぽいけど……。

もしくはピアノ伴奏の歌唱とか……。それでしっとり終わるのでええやん……と。

余談だけど、声質がオリジナル(2007年)よりハスキーというか、鼻声っぽかったのが意外。最近の宇多田ヒカルはどんどん声の厚み・深みが増しているイメージだったので、もっと低い響きの声かと思っていた。

執筆者:山猫

Beautiful Worldは色々ver.がありますが、個人的には

オリジナルが一番好きです。爽やかで飛んでいるような気分になれるので。その次にAcosticかな?

オタクは語る。Beautiful Worldは、宇多田ヒカルしか歌えない。

宇多田ヒカルの最高傑作は何か?!と問われたら小一時間の脳内会議が必要だけれど、「最も他のアーティストには歌いこなせない曲は?」と聞かれればBeautiful World一択だ。

宇多田ヒカルの声の特徴といえば太くて低めのハスキー・ウィスパーボイスだが、太くて低いハスキーボイスには少年っぽさと、女性の力強い優しさを感じさせる力がある。

高山みなみ・緒方恵美など少年声が得意な声優は、落ち着いている大人女性キャラもハマり役になりやすい。

宇多田ヒカルの歌はどれも難しいが、Beautiful Worldは宇多田ヒカルの持つ「少年性×母性」という絶妙な2面性のある歌声によってのみ、楽曲の魅力が最大限に引き出されると思う。1面しかなかったら魅力は半減なのだ。

執筆者:山猫

ちなみに音域的にもフツーにこの曲、ムズイです。

宇多田ヒカルの歌って、ほんとプラグスーツか?ってくらい宇多田ヒカルにしか歌うことを許さない、残酷なほど激ムズなのよね。

おわり

以上、Beautiful Worldの歌詞考察でした。よろしければこちらの記事もどうぞ!

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執筆者:山猫

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