宇多田ヒカルのOne Last Kissを、宇多田ヒカル&エヴァのファンとして考察・感想を書きました。
ゲンドウの歌だ!と言われることが多い曲ですが、宇多田ヒカルのインタビューとか読み漁ってきた人間としては「めっさ、藤圭子×宇多田ヒカルが浮かぶ……」と思って聴いてます。
(藤圭子は宇多田ヒカルの実の母親で、元演歌歌手。2013年に亡くなっており、宇多田ヒカルは「歪んだマザコン」と自称するほど母親を愛していた。)
この記事では
- 宇多田の楽曲として(過去のインタビューから)
- エヴァの曲として(ストーリー、キャラから)
この2つを軸にして、One Last Kissという曲について考えてみました。
歌詞分析。One Last Kissはゲンドウの歌なのか?
宇多田ヒカルのモナリザ=母:藤圭子?
初めてのルーブルはなんてことは無かったわ
私だけのモナリザ、もうとっくに出会ってたから
「あなたと比べたら、名画の美女も見劣りする」を宇多田流にするとこうなるのか。こんな口説き文句いわれたらホイホイついていくわ。
ルーブルを選んだのは今作の舞台がパリだから?(舞台はどこかくらいは宇多田は庵野監督から聞いていたと予想。
宇多田ヒカルは作曲をしてから作詞をするアーティストであり、いつも作詞の時は「ここはこの音に合わせて母音はアがいいな」とか考えて創作しているそうなので、今回もルーブル・モナリザが音的にもちょうどよかったのでは?という気もする。

余談ですが、宇多田ヒカルがSNSで涙が出るほど感動したと言っていたのは、同じダヴィンチ作の「洗礼者ヨハネ」。


ちなみに、宇多田ヒカルは今まで見た中で一番の美人は?というインスタライブでの質問に「ダントツで藤圭子(=母)ですね。よくあんな綺麗な人がいたもんだなと思います」と答えているので、宇多田ヒカルのモナリザは藤圭子なのだろう。
藤圭子はオリコンチャート20週連続1位を取ったこともある実力派歌手。えげつない美人な上にべらぼうに歌が上手い。



北島三郎の「兄弟盃」を本人の目の前でカバーした藤圭子。しかしあまりにも上手いので北島三郎が拗ねてしまう…
なぜ出会い=喪失の予感なのか?
初めてあなたを見た あの日動き出した歯車
止められない喪失の予感
あまりに魅力的な存在と出会う・手に入れたとき、人は喜びを感じると同時に「いつかコレを失う日が来るかもしれない」という恐怖も抱く。
とても美しいガラス細工を手に入れたとき、「やったー!綺麗!」と思うと同時に、「でもうっかり割っちゃうんじゃ…」と最悪の事態を想像してしまうように。
付き合えることになったけど、いつか別れる日が来るんじゃないか。
突拍子もなく、ある日どこかにいなくなってしまうんじゃないか。
縁起でもないからそんなこと考えたくないけど、不安が切り離せない。
「あのとき君と出会ってすべてが始まった」みたいな歌詞はよくあるが、その始まりを描写した直後に「喪失の予感」と終わりを匂わせるあたりが「希望と絶望はセットです」という宇多田っぽさを感じる。



宇多田ヒカルは、昔から「もう死ぬから!」と言う母:藤圭子に対して「いつ死んじゃうのかな?」という不安を抱えて生きていたそうな。
藤圭子が亡くなった時も「あぁ、恐れていた事態が起きてしまった」と思ったとインタビューで述べているので、喪失の予感にはそういった意味もあるのかも。
I love you more than you’ll ever knowの意味・和訳
もう いっぱいあるけど、もう一つ増やしましょう
Can you give me one last kiss?
忘れたくないこと
Oh……
I love you more than you’ll ever know



ここめっちゃミサト×加持が浮かぶ!!
「最後にもう一度だけキスしましょう、忘れたくない・忘れられないほどの」とか、一番いいそうだし、一番似合う。
さて、
more than you’ll ever knowとは「あなたが思っているよりずっと」という意味の表現。
したがって、I love you more than you’ll ever knowは「あなたが思うより、私はあなたのことを愛してる」となる。
シンエヴァではシンジが思うより周りの人(=I)はシンジを愛しているという内容がたくさん出てくる。
「なんでみんなそんな優しいんだよ!僕は世界を滅ぼしかけたのに!」とシンジが泣くくらい、ギャップがあった。
まぁシンジに限らず、作中に素直で感情表現がストレートな人は少ない&好意に鈍い人が多いので、この言葉はほとんどのキャラに当てはまるだろう。
- 「あのときはアンタのこと好きだった」と告げるアスカ。僕も好きだった、と告げるシンジ。
- 「シンジや子供達に背負わせちゃダメだ」と心を鬼にしていたミサト。
- 俺が近づかない方がシンジにはいいんじゃないか?と勘違いして距離を取っていたゲンドウ。



宇多田ヒカルは子供を産んで母になることで、自分の母:藤圭子が自分を生んだ時にどんな気持ちだったのか疑似体験したような気がした、と言っていた。
宇多田は自分が母として子供に接することで「きっと母はこんな風に私を見て、想ったりしたんだろうな。私って母に愛されてたんだな」と思ったのではないか。
そう考えると、いまの宇多田だから出た歌詞なんじゃないかという気もする。
怖いのは宇多田はネタバレ嫌だから、ほぼシナリオ見ないで作詞作曲してるとこですよ、、、
オカンが焼きついたまま 親父の心のプロジェクター…
「写真は苦手なんだ」 でもそんなものはいらないわ
あなたが焼き付いたまま 私の心のプロジェクター



以前、宇多田はインタビューで「一時、なにを見ても母が浮かぶ時期があったんです」と話していたことがある。
まさにプロジェクターに焼き付いてしまって、何を見てもそのときの映像にダブって見えてしまうような感じだったのかも。
「脳裏に焼き付く」という表現では、この「なにを見てもあなたが浮かぶ、あなたに見える」というイメージは出ない。プロジェクターに焼き付くという表現は秀逸。
写真ニガテなのは誰だ?
- 「写真苦手なんだ」と言いそう→ シンジ、ゲンドウ、ユイ、トウジ
- アスカなら、「ふん、まぁこれだけの美少女なら、撮りたくなるのは人の性って奴よね」とか言いそう。
- ノリノリで撮りそう→ ミサト、加持、マリ、ケンスケ
- 苦手とか言わず映ってくれそう→ リツコ、ネルフ本部陣、レイ(無表情)、ヒカリ、カヲル
やっぱゲンドウの歌なのか?!
最近、十何年ぶりにTVリーズを一気に見返したのですが、シンジ&ゲンドウがこのように話すシーンがありました!
ゲンドウ:人は思い出を忘れることで生きていける。だが決して忘れてはならないこともある。ユイはそのかけがえのないものを教えてくれた……。
シンジ:……写真とかないの?
ゲンドウ:残ってはいない……略……すべては心の中だ。今はそれでいい。
アニメ第15話の13:35~頃
オカンが焼きついたまま、親父の心のプロジェクター…
忘れてはならないことっていうより、忘れたくないことよね。
だってゲンドウの人生からユイの存在を取り上げたら、彼は多分生きていないもの。
Not Beautiful Worldすぎて。
やはりOne Last Kissはゲンドウの歌なのか??!
寂しくないふりしてた まぁそんなのお互い様か
誰かを求めることは すなわち傷つくことだった
期待通りに動いてくれる人、物事なんてこの世にはほとんどない。期待した時点で多かれ少なかれ、負け(失望)が決まっているようなもの。
だから求めることは、すなわち傷つくことなのだ。
忘れられないのは、忘れたくないから
この歌は、「忘れられない人♪ 忘れられないこと♪」と散々歌っているが、「られない」というより、忘れたくない人なのだ。
Oh……Can you give me one last kiss?
燃えるようなキスをしよう
忘れたくても、忘れられないほど Oh…
I love you more than you’ll ever know……
忘れられない人……
それにしても、さっきまで凄いゲンドウ×ユイっぽかったけど、やっぱサビ周りを聞くとどうしてもそのカップリングだとなんか違和感がある!
ゲンドウとユイがキスしてるのとか想像できない、、、なんでユイあんな根暗と結婚したの。。。?
冬月も「え、まじ??加持みたいなヤツなら諦めもつくけど、なんでゲンドウ、、、???あいつでいいのにワシがダメな理由って何?年齢??」ってなるよね。
吹いていった 風の後を 追いかけた
眩しい午後
「眩しい午後」と聴くと、ラストでシンジが「行こう!!」と言ってマリと駅→広場へ駆けるシーンをイメージしてしまう。
ただの綺麗な日常の描写で、深い意味はないのかな?と思う。
ゲンドウを特別に意識してはいない?
Twitterで「これはゲンドウ視点では?あなた=ユイでは?」という説を見て、確かに……と思うものの、Beautiful Worldのときも宇多田は「特に誰と限定せず、どのキャラにも当てはまるように作った」と言っていたので、恐らく今回も特別にゲンドウを意識してはいないと思う。
↑上記内容を含め、宇多田ヒカルのエヴァについての発言を知りたい方、コチラ↓の本がオススメです。内容がどんな感じか知りたい方は「宇多田ヒカルとエヴァのシンクロ率が高いのは、テーマの核が少年性&母性だから」を読んでみて下さい。
追記:宇多田ヒカルはエヴァキャラで言うと誰?
5月2日のインスタライブで、「エヴァのキャラで一番自分に性格が近いのは誰?」という質問があり、それに対して
特に似てるなって人はいないんだけど……。「全部、碇ゲンドウの歌だったの!?」って言われて自分でも考えてみたら、もしかしたら一番近かったのかな?と思った(笑)性格は違うけどね」
といった内容を話した。性格は違うけど、「ヤバイくらい忘れられない人がいる」っていうのは同じだものね……。
(てか昔、シンジに似てるって自分で言ってなかったか……?とツッコミたい)
ちなみに、宇多田ヒカルの1人目の旦那さん(紀里谷和明)は宇多田ヒカルを「パッと見はアスカっぽく見られるかもだけど、近くで見てると綾波だよね」と宇多田ヒカルを評したそう。
宇多田の息子もレイを見て「ママだ~!ママに似てる!」というらしい。
One Last Kiss 感想
美しい思い出の反芻。哀しくて幸せなループ。
それがこの曲を聴いて私が感じたことである。
反芻とは
- (牛や羊などが)一度飲んだ食物を口の中に戻し、噛み直して再び飲み込むこと。
- 繰り返し考え、よく味わうこと。
なのだが、「一度飲んだものを口に戻す→再び飲み込む」というのは、つまりはループである。過去の想い出を思い返して(=戻して)は現実に戻って(=飲み込んで)、「あぁ忘れられない」と再認識する。
この歌はずっと「忘れられない♪」と言ってるけど、忘れられないのは、忘れたくないからだ。
たとえ、その反芻が幸福感だけでなく喪失感も思い出させるツラいものだとしても忘れたくない。
本当は飲み込んで未来に進まないといけないけど、反芻するのをやめられない。
それは「私」にとって、あまりにも美しく幸福な思い出だから。
だから哀しくて幸せなループなのだ。



One Last Kissを直訳すると「最後にもう1度だけキス」となるが、個人的に曲から感じるのは「最後にもう一度だけ会いたい」という気持ち。
やはりエヴァと宇多田のシンクロ率やばい
こちらのエヴァ公式本の冒頭の庵野監督の言葉で、こんな1節があったのでご紹介。
「エヴァ」はくり返しの物語です。
主人公が何度も同じ目に遭いながら、ひたすら立ち上がっていく話です。
わずかでも前に進もうとする、意思の話です。
曖昧な孤独に耐え、他者に触れるのが怖くても一緒にいたいと思う、覚悟の話です。
同じ物語からまた違うカタチへ変化していく4つの作品を、楽しんで頂ければ幸いです。
庵野秀明
これを読んで、宇多田ヒカルの『誰にも言わない』で「一人で生きるより、永久に傷つきたい♪」と言ってたけど、それじゃん!!と思いました。
やはりエヴァと宇多田、シンクロ率がスゴイ。


内容・特典はこんな感じ
歌詞ブック?は表紙&背表紙合わせてわずか4ページ。宇多田ヒカルの写真・メッセージなどはなし。MVのショットとか入ってたるかと期待してたのでちょっと残念……。
コメント