Beautiful Worldというタイトルはどういう意味なのか?これは誰目線の歌なのか?
宇多田ヒカル本人が「自然と綾波レイとか碇ユイみたいな気持ちの、母親的な視点、母性みたいなみものが強く出てきていた」とインタビューで言っているにも拘わらず、なぜ多くの人がBeutiful World=ゲンドウの歌だと思ってしまうのか。
…………などなど、過去のインタビューを引用しながら、Beautiful Worldを徹底的に分析・考察してみました。
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Beautiful Worldとは? タイトルの意味は「月が綺麗ですね」
さて、まずこの曲のタイトルBeautiful Worldとはどういう意味が込められた言葉なのか?
その答えは下記のインタビューにある。
どんな場所でも、ただあなたがこの世界に存在してるとか、誰か深く思える人がいるとか、存在してるとか、そういうことだけで、そこが耐えられる場所になるんでしょって思って。
なんか……生きる……、「生」ってホントに耐えがたいものじゃない?それに耐えうる拠り所っていうか、なんか「これがあるからここにいられる」とか、そういうものがあるから「Beautiful World」って言える。逆にそれがなかったら「なんだ、このクソ世界!」ってところに行っちゃうんだけど。願いに何も価値はないと思うんだけど、願わずにはいられないからもう認めるしかないじゃない?みんな願うってことを。
宇多田ヒカル「点」 P199~200
上記インタビューによれば、「(そもそも基本的に)生は耐え難い」ものであり、人は「これがあるからここにいられる」という存在によって、人は生に耐えているのだと宇多田ヒカルは考えている。
一言で言えば、生きがいというやつである。
世界は決して無条件で美しい訳ではない。なんだこのクソ世界!と思いたくなることもあるけど、(てかなんならその方が多かったりするけど)、美しいと思える何かがあるから、”耐え難い生”を耐えることが出来る。世界を美しいと思える。
Beautiful World♪=(あなたがいるから・これがあるから)美しい世界!
要するに、Beautiful Worldとは遠回しなI love you。
「月が綺麗ですね」ならぬ、「世界が綺麗ですね」なのだ!!
そして、これがわかるとインスタライブで宇多田ヒカルが言っていた「痛み止め」の意味もより深くわかる気がする。↓
インスタライブの「痛み止め」の意味=Beautiful Boy
2020年5月10日のインスタライブでファンから寄せられた質問に、宇多田ヒカルが非常に詩的な回答をしていた。
―――誰かを忘れることはどうしてこんなに辛いの? Why is getting over someone so Painful?
私が思うに……関係が終わるときとか誰かと別れるときに、もしつらいなって感じるのなら、その心の痛みって言うのは初めから存在していて、その関係自体が痛み止めみたいな役割を果たしていたのかなって。
もう既に抱えていたつらさを、紛らわせてくれてたってことなんじゃないかな。そうした支えを失うときに、痛みを感じるんだと思う。
どれほど依存しないように、頼りすぎないようにって考えていてもね。薬物みたいになってしまうかもね。その心の痛みが、もともとあったのなら。私の過去の経験からすると、そんな感じかな。
宇多田ヒカル インスタライブ 痛み止め – YouTube
宇多田ヒカルは先に引用したインタビューで、”生”とは耐え難いもの(=生きることはPainfulである)と言った。
※painful……痛い、苦痛を与える、苦しい、つらい、骨の折れる
回答する直前に言った「面白い質問だと思ったの、そんな風に思ったことなかったから」という言葉を踏まえると、宇多田は以前からこの考えを持っていたわけではなく、質問文のPain(=痛み)という単語を見て、「痛み止め」という表現・考え方を思いついたんじゃないかと思う。
生きることは痛く、虚しく、つらい。つまり基本的にはPainfulなのだが、
そのなかで私たちは大事な人だったり、推しだったり、趣味だったり、仕事だったりに【美しさ=Beautiful】を見出し、生きること・生きている世界のつらさ・虚しさをしのいでいるのだ・
「生きる」という痛みをやわらげてくれる存在―――それを宇多田は痛み止めと表現し、Beautiful Boy♪の正体なのだと思う。
Beautiful World 歌詞の意味を考察
君のそばで眠らせて=隣の墓で永眠させて
It’s only love
もしも願い一つだけ叶うなら
君の側で眠らせて どんな場所でもいいよ
宇多田は下記のインタビューで「結局は言い方は難しいこと言ってても誰かに愛されたいとか、 誰かを愛してるとかそういうことだから、簡単に言っちゃうと」と言っています。
なので「It’s only love=ただ愛してるだけ」ということかな?と推測。
次に「もしも願い1つだけ叶うなら、君のそばで眠らせて」だが宇多田はこれがBeautiful worldという曲のメインであると言っている。
下記のインタビューによると、「君のそばで眠らせて」は突き詰めると「死んだ後にお墓の隣に入りたい」という意味なのだそう。
歌詞はやっぱり、人間関係のテーマとか親のこととか信頼関係とか、人と人の間にある壁とか、そういう人間関係のテーマとか、やりとりみたいなものに触れてる歌詞にはしたかったんだけど、そんなあからさまに「人と人のこと」みたいなのもヤダし、結局は言い方は難しいこと言ってても誰かに愛されたいとか、 誰かを愛してるとかそういうことだから、簡単に言っちゃうと。だから、結局そういう、誰かを強く想ってるっていうのが歌詞のストーリーになるんだろうなぁと思ってて。
もしも願いひとつだけ叶うなら君のそばで眠らせて どんな場所でもいいよ♪がメインみたいなもん。
子供のころに母親と一緒に寝てて、なんかこう……もう一度母親の隣で寝たいとか、恋人の隣で寝たいとか、あと……ホントの中心部分で言うと死んだ後にお墓の隣に入りたいとか、死んだ後でもいいから近くにいたいいとか、そういうことなんだけど。ホント、私だけの歌で「エヴァ」とか関係なかったら、もっとわかりやすい歌詞にしてるんだけど。
宇多田ヒカル 「点」P199より
宇多田ヒカルはこの歌のテーマは「願い」と言ったそうだが、この願いとは何なのか?と掘り下げると、それはきっと”安らぎ”だろう。
シンジもそうだけど、人が「消えていなくなりたい」「死にたい」と思っているときは、たいていは本当に死にたいのではなく、ただ「安らぎたい」のだ。
もしエヴァ関係なく宇多田ヒカルがこの歌を仕上げていたら、サビは「もしも願い1つだけ叶うなら、君の隣で永眠させて、どんな墓でも結構♪」と、もっと耽美な歌になっていたかもしれないワケです。
宇多田はこの辺の「タイアップのポップ性」と「少しダークな哲学・情感」のバランス調整がホントに上手い。取っつきやすいけど、深みがあるのでズブズブはまる。
↓『点』は宇多田ヒカルの楽曲をより深堀りたい人は必須。過去のインタビュー内容がほぼ載ってるし、宇多田ヒカル本人が監修しているので信頼性も抜群です。
Beautiful Boyを見守る歌
Beautiful world
迷わず君だけを見つめている
Beautiful boy
自分の美しさ まだ知らないの
冒頭で書いた通り、Beautiful world=「I love you」。
さて、問題はその次よ。
宇多田ヒカルはこの歌を「登場人物の誰目線であっても当てはまるような歌にした」とインタビューで答えていた。しかし「Beautiful Boy 自分の美しさ、まだ知らないの♪」では、わざわざBoy(=男の子)に限定している。
単純にBoyという音がよかっただけかもしれないけど、Beautiful Heartとか、2番ではBeautiful girlにするとかもあったと思うのよね
わざわざBoyにしたのは、少年を見守る女性の視点※を強く出したかった・出てしまったからなのだと思う。
(※宇多田ヒカル本人が、「母親の視点から歌っている感覚がある」と言っている。後述の引用を参照願います)
だからかBeautiful Worldは、曲中の一人称はすべて「僕」だが、曲全体を通して、その「僕」を優しく見守る女性の存在を感じる。
この歌は、自分を知らない・好きではないシンジ(=少年性)と、そんな少年性を理解・受容して見守る周囲の人(=母性)の歌なのだ。
少年の心の声
寝ても覚めても少年マンガ
夢見てばっか 自分が好きじゃないの
何が欲しいか分からなくて
ただ欲しがって ぬるい涙が頬を伝う
このAメロは少年の描写である。自分が好きじゃないから「寝ても覚めても少年マンガ 夢見てばっか♪」になるのは少年あるあるだ。
「ぬるい涙」だが、「ぬるい」という言葉には中途半端に暖かいという意味もあるが、”厳しさがない”という意味もある。厳しさがない=甘い。
つまり、ぬるい涙=甘ったれた涙、という風にも解釈できる。まぁ何が欲しいか分からなくて、ただ欲しがって泣くんだから甘ったれてると言えるだろう。
言いたいことなんか無い
ただもう一度会いたい
言いたいこと言えない
相性無しかもしれない
それでいいけど
シンジが、お母さんの何か、魂に一瞬だけ会うシーンがあるのね、エヴァンゲリオンの長いストーリーの中で。その時に、「あ、何だ、ただもう1度会いたかっただけだったんだ」って彼は言うの。彼自身そんな願いがあったなんてわかってなかったんだけど、結局そういうことを思ってたんだってその時に気づく。だから「そうそう。そんなもんだよね」みたいなね。
願うことが生きること…だから。願いたくないのに願っちゃうし。ここだけはもうどうしようもなく、生き物の本質だと思うから。
EVANGELION.CO.JP
上記のインタビューで宇多田はストーリー中でシンジが言った「ただもう一度会いたかっただけなんだ」というセリフを取り上げている。
また、「言いたいこといえない 根性なしかもしれない♪」もモロ、シンジである。アスカに「根性ナシッ」って罵倒されてるし。「それでいいけど♪」って開き直ってるところもシンジっぽい。
Bメロも完全にシンジである。
2番A~Bメロは母の目線?
どんなことでもやってみて
損をしたって 少し経験値上がる
この「なんでもやってみな、損してもいいの、全部経験よ!」というのはどう見てもシンジの(=少年)の言葉と思えない。
母(=大人)の言葉である。
1番のA~Bメロは少年の心だが、2番のA~Bメロは母の心を表している。
新聞なんかいらない
肝心なことが載ってない
最近調子どうだい?
元気にしてるなら
別にいいけど
新聞に載ってない肝心なこと=「元気にしてる?」
「最近どう?元気にしてる?」と聞くなんて母じゃん!そして「元気にしてるなら別にいい」と答える……
……母じゃん!
「別にいいけど」と言われると「え、そんなに興味ないのかよ!」と思いそうだが違う。近況を聞いてきた人は「元気でいてさえくれればいい」と思っているのだ。
……やっぱ母じゃん!
僕の世界が消える=死ぬ?
僕の世界消えるまで会えぬなら
君の側で眠らせて どんな場所でも結構
Beautiful world
儚く過ぎて行く日々の中で
Beautiful boy
気分のムラは仕方ないね
もしも願い一つだけ叶うなら
君の側で眠らせて
「僕の世界消えるまで」=死ぬまで、という意味かなと推測。先にも書いたようにこの歌は「死んだら隣の墓に……」という気持ちが込められているので、
この部分の歌詞は「死ぬまで会えないなら、死んだ後に隣の墓で眠らせて」という意味かと踏んでいる。
儚く過ぎて行く日々の中で
Beautiful boy
気分のムラは仕方ないね♪
個人的に一番好きな歌詞。人の心は移ろいゆくもの、という諦観が心地よくて好きです
Beautiful Worldはゲンドウではなくユイの歌
自然と母親的な視点が強く出た
One Last Kiss然り、Beautiful Worldもゲンドウの歌だ!と言われているが、Beautiful Worldに関して言えば宇多田ヒカルは下記のように述べている。
愛する人のそばで寝ていて、その人が私がそばにいるって気づかなくてもいいから、なんか寝顔を見てるとか、なんとなく寝息を聞くとか、それだけでもすごく安らいだりするじゃない?
私が母親なんかになって、子供の隣で寝てたりしたら、今のこの気持ちの何百倍もの安らぎとか愛情とか、そういう不思議な感覚に陥るんだろうなって少し想像しただけで「凄そう!」って思うの。
で、そういう想像をしたうえでBeautiful Worldをとらえてみると、ちょっと母親の視点から歌っているような感覚があるんだよね。
別に誰かの気持ちって特定しないで書いていたのに、自然と綾波レイとか碇ユイみたいな気持ちの、母親的な視点、母性みたいなみものが強く出てきていたのは、今のこの時期(=24歳)だったからかもしれないなって。17歳ぐらいのときにこれを書けって言われてたら、もっとこう別の視点で書いていただろうし、それもおもしろいなと思ったり。
宇多田ヒカル 「点」 P202~203
ゲンドウの歌だと思ってしまう理由
Beautiful World=ユイ目線でシンジを想う歌である※、ってのが私の見解なんですが、なぜか世間では「ゲンドウの歌だ!」と話題になっているようです。(※1番ABメロはシンジ目線だけど)
私としては、「いや、ゲンドウ目線じゃあないだろ、損をしたっていいじゃん、経験だよ☆とか絶対いわないだろ、あのオヤジ」と思うんですが。
でもそう思う気持ちも分からんでもない。なぜみんなゲンドウの歌だと思うのか?その要因は、ゲンドウ≒シンジだからだと思います。
ゲンドウとシンジって似てるんですよね、「他人が怖い、でも愛されたい・受容されたい、でも傷つくのは嫌だ」。そして自分を拒絶しない存在(=レイ・ユイ)への依存度が高い。
おそらく、ユイ・レイは、シンジを見るような気持ちでゲンドウを見ていると思うのです。
ユイがゲンドウを「可愛い人」と思うのは、「まるで子供みたいだな」と母性本能をくすぐる存在として見ているからだと思うんです
ゲンドウ≒シンジならば、「ユイ目線でシンジを想う歌」≒「ユイ目線でゲンドウを想う歌」と言えます。
「シンジ目線の1番ABメロ」≒「ゲンドウ目線の1番ABメロ」なので、「ゲンドウの歌だ!」と感じても、無理はないかもしれません。
でも、One Last Kissは確かに「ゲンドウの歌なの………か?」と思うほど、ゲンドウにハマっている。TVアニメでシンジの「(ユイの)写真ないの?」という質問にゲンドウは「すべては心の中だ、今はそれでいい」って答えてるしね……。
オカンが焼き付いたまま、オヤジの心のプロジェクター♪
Beautiful World Da Capo ver. 正直な感想
ううううーーーん……映画の終わりに使うなら、オリジナルver.でもよかったのでは??
これが正直な感想。
One Last Kissで爽やかに終わった後にコレが来るのか……と思うと、うーーーん……渋いというか癖が強いというか、後味さっぱり感が欲しいというか。
感覚的には、One Last Kissというハーブティーを飲んだ後に、スパイスきつめのチャイとか、飲みやすい漢方薬を飲むような気分というか……。なんか妙にエスニックなのよ。曲の後半(およそ3分以降)は軽やかさが復活するし、これはこれで「ついに普通の世界が訪れた!さようなら青春」みたいなラスト感はあるんだけど……。
Beautiful Worldのオリジナルver.という水・炭酸水でええやん、と私は思ってしまう。あれ以上のエヴァ歌はないのに。まぁ冬っぽくはないけど……アレは夏っぽいけど。
でも個人的には、one last kiss → オリジナルverでふわっと風として飛んでいくように終わりたかったのよ……。
もしくはピアノ伴奏の歌唱とか……。それでしっとり終わるのでええやん……と。
余談だけど、声質がオリジナル(2007年)よりハスキーというか、鼻声っぽかったのが意外。最近の宇多田ヒカルはどんどん声の厚み・深みが増しているイメージだったので、もっと低い響きの声かと思っていた。
Beautiful Worldは色々ver.がありますが、個人的にはオリジナルが一番好きです。
瑞々しく、軽やか。水の中で絵の具が織りなす、美しい流し模様のような、ふわっと頬を撫でたり髪を浮かせる優しい風のような、そんなイメージなのよね。
水とか風とか、とにかく浮遊感があるのよ。聴いていると、自分が肉体から離れて、どこかを飛んでいるような気分になれる。
Acosticは「アスファルト・電柱・陽炎」というイメージで、あれはあれで好き。
Beutiful Worldはインスト(カラオケ音源)も素晴らしいので、ぜひ歌ナシで聴いてほしい!!
カラオケ音源は、『Beautiful World・Kiss&cry』のアルバムか、『One Last Kiss』のアルバムに収録されています。
宇多田の声質あっての『Beutiful World』?
宇多田ヒカルの最高傑作は何か?!と問われたら小一時間の脳内会議が必要だけれど、「最も他のアーティストには歌いこなせない曲は?」と聞かれればBeautiful World一択だと思う。
(いや、でもOne Last Kissも相当、曲者なんだよな……)
宇多田ヒカルの声の特徴といえば太くて低めのハスキー・ウィスパーボイスだけど、太くて低いハスキーボイスには少年っぽさと、女性の力強い優しさを感じさせる力がある。
高山みなみ・緒方恵美など少年声が得意な声優は、落ち着いている大人女性キャラもハマり役になりやすい。
宇多田ヒカルの歌はどれも難しいが、Beautiful Worldは宇多田ヒカルの持つ「少年性×母性」という絶妙な2面性のある歌声によってのみ、楽曲の魅力が最大限に引き出される。1面しかなかったら魅力は半減なのだ。
だから色んな人がカバーしてても「なんかちゃうねん」と思ってしまう……(-_-;)
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